私が60歳になったおりに、先輩、友人たちが集まって、還暦のお祝いをしていただきました。
赤いちゃんちゃんこと赤いベレー帽をかぶせられると、なんとなく自分も年寄りの仲間入りをしたような気分になりますが、当時、ソニー名誉会長の井深大さんから、「50、60はハナ垂れ小僧、70、80が働き盛り」というお祝いの電報をいただき、すっかり子ども扱いされてしまいました。
以来、私は60代をダイヤモンド・エイジ、70代をゴールデン・エイジと呼ぶようにしています。
そして、80代になってようやくシルバー・エイジになるのです。
シルバー・エイジといえば、先日、自営業をしている友人からこんな話を聞きました。
彼は60歳を迎えて何か新しいことに挑戦しようと、スキーをはじめました。
たまたま知り合いに紹介されたスキーツアーに参加したところ、30人の参加者の平均年齢がなんと70歳だと聞かされてびっくりしてしまいました。
このびっくりはほんの序の口で、彼にとってはこのツアーはまさに驚きの連続で、大きなカルチャーショックを受けたと語っていました。
東北新幹線でスキー場に着くと、休む暇もなくゲレンデに出て滑りはじめる元気さに、まず圧倒されました。
スキーのレッスンを受けるために試走をやらされたところ、初心者は彼だけで、残りの29人の人は、20代の若者顔負けのさっそうとした滑りで、指導員を驚かせました。
夜の宴会で、隣にすわった老夫婦から、「あなた意外に若いのね、昼間の試走を見ていたら、へっぴり腰で、おっかなびっくり滑っているから、90過ぎのおじいさんかと思ったの。
この人、こんどのツアーについてこれるかと心配していたの」と語りかけられたというのです。
80過ぎのご婦人から年寄り扱いされ、彼はこれでレッスンに精を出し、帰りにはこのご婦人からたいへんほめられたそうです。
こうした話を聞くと、80代はまだゴールデン・エイジと呼ばなければならないかもしれません。
私がアメリカの学会などで知り合った学者たちの多くも、「リタイヤ後はこういうことを楽しみたい」とか、「大学を辞めて、自分の時間ができたら、たっぷり時間をかけて長年温めてきたテーマに取り組みたい」などと、日々に語っていました。
そして実際、リタイヤした人たちは、希望どおりの人生を送っているようです。
アメリカでは一般に、定年のことをハッピー・リタイヤメントといって、喜ばしいことと考えています。
定年後は、誰にもしばられず、一日24時間を自分の好き勝手に使える時期です。
好きなゴルフざんまいもいいでしょうし、バラづくりに精を出すのもいいでしょう。
かつてやろうと思ってできなかった、研究テーマに打ち込むこともできますし、まだ行ったことのないところに旅行することもできます。
要するに定年後の人生を、好きなことが好きなだけできるパラダイスなのだと、考えているのです。
だからこそ彼らは、若いときから稼げるいまのうちに一生懸命稼いで、早く仕事からリタイヤして悠々自適の生活を送りたいと、願いながら働いているのです。