私はよく旅行に出かけますが、とくに船旅が大好きです。
海外でも外国航路を利用することがあります。
船旅は時間がかかるから、忙しい現役時代にはなかなかできないぜいたくのひとつです。
船のなかの限られた空間の、一見すると不自由な状況が、さまざまな知り合いを多くつくるのにとても有効なのです。
人生に余裕ができてくるようになったら、多少なりとも、こうしたぜいたくをふやしたいものです。
人間は、おたがいに共通体験を持つことによって、親密度が深まっていきます。
ともに旅をするときは、当然ある程度の時間を連続して共有します。
これが船旅ともなれば、目的地に着くまでの何日間も、船内のあちこちで、同じ人と何回も顔を合わせるという生活が続きます。
やがて、顔を見かければ自然に挨拶をかわすようにもなりますし、親しく話すようにもなっていきます。
限られた空間での共通体験が、親密さを増すのにひじょうに役立っているのです。
とくに外国航路などを利用する乗客の顔ぶれは国際色豊かですから、外国人の友人を得るチャンスにも恵まれます。
思えば私もそうして、いままでにずいぶんたくさんの人とめぐり会ってきました。
もちろん、船旅に限らず、旅行会社が主催する団体旅行でもいろいろな業種の人とのネットワークは広げられます。
とくに、こうしたチャンスには、多人数で参加するより、ひとりで参加したときのほうが有効に生きるようです。
仲間が多いと、つい仲間同士で群れてしまい、未知の人と知り合う機会が少なくなってしまいがちです。
相手も、連れのいる人と親しくなるのを遠慮してしまうでしょう。
せっかく年代や性別、職業を越えたさまざまな人たちが集まってくる団体旅行で、多くの人と接触する機会をムダにするのはもったいない限りです。
たっぷりと時間を使い、旅行を楽しみながら未知の人と知り合い、新しい情報に触れられるというのは、じつに楽しいことです。
ですから、団体旅行に参加したら積極的に話しかけ、多くの人と知り合いになるよう心がけてみてはどうでしょう。
旅から帰ってからも、写真交換会をしたり、おたがいの家を訪問し合ったりと、親交が深まるケースもけっこうよくあるものです。
外国航路に乗らないまでも、外国人と親しくなりたいというのであれば、外国人観光客がよく利用する観光バスに乗り込むという手もあります。
いずれにしても、旅行というのは未体験の体験にこそ意味があるのです。
刺激も新鮮で、興味がわくものを見つけるのも容易でしょう。
訪れた地域の文化、歴史、鉄道などを調べはじめれば、好奇心の対象はどんどん広がっていきます。
未知な人と自然な形でめぐり会え、いろいろな刺激を与えてくれる旅に出ることは、一見、自分の世界をせばめてしまいそうな定年後の生活を、じつは現役時代以上に多彩で豊かなものにしてくれる可能性を、たくさん秘めているのです。