昭和11年のベルリン・オリンピックの女子200メートル平泳ぎで優勝した、「前畑がんばれ」のラジオアナウンスで有名な、前畑秀子さんをご記憶の方も多いでしょう。
結婚されて兵藤秀子さんとなり、名古屋市のプールで、校長先生と呼ばれながら、水泳教室の指導者として活躍していました。
前畑さんは以前、女性水泳教室の指導中に脳卒中で倒れ、病院に運ばれたことがあるそうです。
しかし、水泳で鍛えた強靭な精神力と体力で、歩行訓練などのリハビリを乗り越え、一年半後にはもう、ふたつのプールで水泳の指導を再開し、周囲を驚かせたといいます。
脳卒中で倒れ、奇跡的に一命をとりとめたあと、わずか三日後には、早くも社会復帰への意欲を燃やしていたといいますが、これには前畑さんが、「自分には水泳がある」という自信があったことも、大きな影響があると思います。
これまで、自分は水泳でがんばってきます。
苦しい練習にたえて、オリンピックで金メダルを取れたのです。
それを考えれば、病気と闘って勝つことなどなんでもないはずです。
そして何よりも、もう一度大好きな水泳ができるようになりたい。
そんな気持ちが、前畑さんをふたたび水泳の指導者に復帰できるまでの体に戻したのでしょう。
以前行われた毎日新聞主催の、「素敵なおばちゃまコンテスト」で入選した69歳の年配女性は、バスト87、ウエスト60、ヒップ80というすばらしいプロポーションでした。
彼女は、食事、ダンスなどでシェイプアップして、体重45キロをキープするよう毎日計っているそうです。
彼女がスタイルに自信を持っているのはいうまでもありません。
プロポーションに対する「これだけは」という自信が、70歳をまえにして、20代の女性にも負けない健康な肉体と、若々しい精神を維持させているのでしょう。
前畑さんにしても、さきの女性にしても、若々しく生きている人には、「自分にはこれがある」と思えるものを持っています。
それに対する自信や誇りは、彼女らをいつまでも現役にとどめておくのにたいせつな要素となっているはずです。
自分で「これだけは」と思える得意技を持つことは、何歳になっても、まだまだ引退するにはもったいないと思える気持ちを与えてくれるのです。
とはいえ、なかなか「自分はこれは得意だ」と思えるものを持つのはむずかしいかもしれません。
「自分はこれが好きだ」と思える趣味を持つだけでも現役精神を維持するのに、大きな役割を果たしてくれます。
「私は釣りが大好きでしてね。
体みの日が待ち遠しくてたまりませんよ」と、日常の会話のなかで釣りが好きだと、それとなくPRしておくだけでも、思わぬ人から話かけられたり、それこそ釣りに誘われたりということも十分考えられるでしょう。
人と雑談をしているときに、自分の趣味などをちょっと小耳に入れてみるだけでも、偶然相手が同じ趣味を持っていれば、会話が盛り上がってその人と親交も深められるでしょうし、たとえそうでなくてもその人の記憶には残ります。
そしてそれがきっかけとなり、人から人へと伝わって、現役として活躍する場を持つチャンスも多くなるはずです。
趣味というのは、自分にとっては積極的にふるまえる場、つまり自分の土俵です。
そこで、会話のなかに趣味を持ち出すことで、自分を土俵に上げるきっかけをつくってしまうのです。