私の趣味のひとつに、絵画の収集があります。
もちろん、ピカソ、ゴッホ、ルノワールといった、世間で評価の定まった名画など集めようもなく、まだ世間に知られていない名もない画家の絵を集めています。
まだ誰にも知られていない私なりの名画年を探し出し、それからどう評価されていくかを見るのは、ある意味ではひじょうにクリエイティブな作業といえるかもしれません。
新星日響名誉指揮者だった山田一雄さんは、80歳近くになられても、その指揮ぶりは、日本の指揮者のなかではもっとも情熱的だとの定評がありました。
指揮台の上でジャンプするのはしばしばで、その姿はまるで踊っているようだともいわれました。
「よい音は、指揮者の芸術的高さと魂の重量から出る」と自著で説かれている山田ぼくね、どの曲を演奏しようかって、いつでもクリエイティブな精神の戦いをしています。
肉体的エロスは下降しても、精神的エロスは無限に伸びるからね」と語り、けっしてこれまでと同じ演奏では、自分自身が満足しないといっていました。
一流の指揮者でも、高齢になると失敗するのを恐れて、新曲や難曲はなかなか手がけないといわれますが、山田さんは、つぎつぎと新しい仕事にチャレンジし続けたのです。
山田さんばかりではありません。
女性作家をめざす人のために行われているフェミナ賞の受賞者のひとりに、78歳の女性が選ばれました。
78歳という高齢の受賞者は、文学新入賞としてきわめてめずらしいケースでしょう。
受賞作は、自分自身の波乱に満ちた生活体験を描いたもので、彼女がはじめて書いた作品なのだそうです。
78歳という高齢で、これまでやったことのない小説という分野に新しく挑戦していく精神は、みごとというほかありません。
私たちは何ごとにつけても、子どものころから、準備することを教えられてきています。
たしかに、あらかじめ準備しておいて行動するぶんには、安全は約束されています。
しかし、いつも準備された行動ばかりしていることによって、まだ経験したことのない、未知のものに対して、つい、しりごみしがちになっています。
未知を避けさえすれば、危険なことにはならないだろうと考えるようになっているのです。
その結果、たとえおもしろくなくても、安全な行動をとって、未知のものへのチャレンジを、あきらめてしまいがちです。
誰でも小さいころは、まだ味わったことのない未知の世界に対する夢や期待に、胸をワクワクさせたことがあるでしょう。
いくら年を重ねようと、世の中にはまだまだ自分の知らないおもしろいものがあるはずです。
クリエイティブな精神が失われることによって、それに気づかずにいるのは、もったいないことだと私は思っています。