昭和41年にはじまった、テレビの「日曜洋画劇場」の解説を務めたのは、ハイまたお会いしましたねでおなじみだった、映画評論家の故淀川長治さんです。
この番組の解説は、映画のまえとあとで計三分半でしたが、ユニークな内容と軽妙な語り回は絶品で、見ている人を退屈させませんでした。
この番組のため、淀川さんは試写を見たあと、解説のビデオ撮りまでの一週間、何をどう話すか、懸命に想を練ったといいます。
枕元にはつねにメモ帳を置いて、夜中に目が覚め、ふっとヒントが浮かぶとすぐに書き込んだそうです。
視聴者に、元気いっぱいの輝いた顔を見せたいため、撮影まえはスタッフとはじゃいで気分を盛り上げたといいます。
そして最後に、コップ一杯の水をグッと飲んだそうです。
これは末期の水で、いつも今日のしゃべりが最後という気持ちで、撮影にのぞんだのだといいます。
私も、淀川さんとは三度ほど対談したことがありますが、プロとはこういうものかと、強い感銘を受けました。
『日曜洋画劇場』のような長寿番組は、解説もマンネリ化し、ふつうなら視聴者からあきられてくるものです。
最後まで高視聴率を維持したのは、映画の内容もさることながら、淀川さんがつねに新鮮な語り口を考えて、しかもサービス精神をタップリと発揮していたことが、大きく寄与したと思います。
淀川さんのいつまでも若々しい笑顔は、何度見ても新鮮な印象を視聴者に与え、たいせつなキャラクターとして番組を支えていたといえるでしょう。
毎回、今日のしゃべりが最後という気持ちで撮影にのぞむ緊張感が、若さを保つことと、番組のマンネリズムを避けることにつながっていたのです。
人間の老化を進めてしまう大きな要因のひとつに、「思考力の低下」があります。
そして、この思考力の低下を招く原因の一端は、規則正しすぎる生活にあるといっていいようです。
規則正しい生活といえば聞こえはいいのですが、要するにそれは、緊張感のないマンネリ生活にほかなりません。
人間の脳は、現実のなかの違和感や疑問などの「変化」に対応して働くものですが、マンネリ化した生活を送っていると、その変化を見つけることができなくなるのです。
サラリーマンのように、判で押したような生活をしがちな人ほど、気をつける必要があるのです。
とくに中年サラリーマンは、要注意です。
年をとるにしたがって、仕事以外のことがだんだん億劫になり、毎朝決まった時間に出勤して、ほぼ決まった時間に決まったルートをたどって帰宅するようになってくるものです。
これでは、緊張感もなくなり、自分がマンネリ化した生活を送っていることにさえ気がつかなくなるでしょう。
たまには朝早く起きて、ジョギングをして出勤したり、会社が終わったあと、音楽会に顔を出したり、映画を見て家に帰ったりするなど、すこしずつ意図的に変化のある生活を心がけてみてはどうでしょうか。
俗に「目からウロコが落ちる」といわれるように、マンネリ生活に加えられた小さな変化が新鮮な刺激になり、それが脳の活性化を促して、若さを保ち続ける役割を果たしてくれるかもしれません。