私は大学を退官後、在職時代以上に精力的に講演活動を行っています。
依頼者は企業や教育団体などさまざまで、講演の内容も専門の心理学から、いまもっとも関心を持って取り組んでいる老後の問題まで、多岐にわたっています。
月のうち十日くらいは講演で日本各地を飛び歩いており、現役時代以上に忙しい毎日です。
身近な人にいわせると、いい年なのだから、そこまでして飛び回ることはない、もっと体をいたわったらどうですかとなります。
しかし私にとっては、忙しいほうが楽しいし、いっこうに苦にならないのです。
それどころか、忙しさは、健康維持の最良の方法だと考えているのです。
講演というのは、けっこう重労働です。
一時間半から二時間、汗びっしょりになって、聴衆の気持ちをいかにしてつかむか、まさに奮闘の連続です。
講演が終わってからも、このまえ失敗したのはなぜだったのか、逆にうまくいった原因はなんだったかなど、さんざんに頭を使わせられます。
こうして講演をしたあとは、じつに充実した解放感を味わうことができます。
気分はいつもスカッとし、一肩のコリはいっぺんに消えて、体調がとてもよくなるのです。
いってみれば、講演は私の精神的、肉体的な健康法、すなわちレジャーのひとつになっているといえるかもしれません。
このように、私にとって講演が楽しい仕事であり続けているのは、私が講演を主体的、能動的にやっているからだと思います。
それが意義のある講演だと思えば、どんなに遠い場所でも飛んでいきます。
また、意義がないと思われる講演は、人からどんなに頼まれても断ることにしています。
その意味では、あくまでも自分のためにやっている講演活動なのです。
どんな仕事でも、「やらされている」と思うよりは、「やりたいからやっている」と思ったほうがはるかに楽しいものです。
やらされているという意識は、受動的で、みずから選択をすることのできない、ネガティブな心理状態です。
反対に、「やりたいからやる」という意識は、その気になればいつでもやめることができるという能動的で、ポジティブな心理状態です。
こうした能動的な精神を持つことは、とうに自立した人生を送ることと関係しているのではないかと思います。