サラリーマン同士が集まって、昨夜のプロ野球の話をしているときなどに、よく「自分が監督だったら、あんな朱配を振るったりはしない」という人がいます。
そして、自分ならどのような方法と展開で、あのようなピンチの場面に対処するかを、想像力たくましく再現してみせます。
つまり、彼はプロ野球を見るときに、一観衆として見ているのではなく、監督という立場の人間に自分を置き換えて、試合の組み立て方を考えながら見ているのです。
これはなにも、プロ野球などのスポーツを見るときだけに限った話ではありません。
日常生活のなかで、これと同じようなことをひんぱんに考えながら生活している人がいます。
こういう人たちは、一般に頭が硬直化しにくいといわれています。
たとえ頭のなかだけのことであっても、自分以外の何者かに変身するためには、それだけ思考の柔軟性が求められるからです。
これは、心理学でいうロールプレイング(役割演技)の考え方に通じる心理効果を生むやり方といえます。
ロールプレイングというのは心理劇的集団療法の技法で、日常の場面でもセールスマンや百貨店販売員の訓練として、よく利用されています。
さまざまな販売状況を設定し、セールスマンや販売員が客になったり売り手になったりして、それぞれの役割を演じます。
「こういう場面のとき、自分ならどう対処するか」と考え、それを実際にやってみるのです。
このロールプレイングは、セールスマンがシミュレーションを行うときのように、演技を受け止めてくれる相手がいなくても十分にできるものです。
たとえば、テレビドラマや映画を見ているときにただなんとなく見るのではなく、その主人公になったつもりで、「自分ならどうするか」を頭のなかで考えながら見るようにするのです。
また、新聞の犯罪記事を読んで、自分が犯人だったらどうするか、逆に犯人を追う警察の立場だったらどうするか、新聞記者だったらどのように報道するかと、さまざまな立場に自分を置き換えてみるのです。
頭のなかだけでのロールプレイングですから、日常の束縛にとらわれず、「自分ならどうする」と、自由に物事を考えられます。
物事の対処法を、つねに自分を中心にして考えていく訓練を毎日繰り返し行っていくと、思考力が柔軟になり、直感力がつき、積極性も身についてくるのです。
こうした方法はいい換えるなら、日常生活におけるシミュレーションといえるでしょう。
飛行機の操縦や自動車の運転訓練などの初期には、実地にはいるまえに、まず模擬装置を使った架空実習が行われます。
このシミュレーションをやっておけば、実際に訓練をはじめたときの心理的抵抗感は少なくなります。
シミュレーションでうまくいけば、現場に立ったときの意欲も、格段に違ってきます。
ふだん消極的な考え方しかできない人なら、こうした頭のなかでのシミュレーションやロールプレイングでは、わざと積極的な考えをするように意識してみると、実際に自分が出会った場面でも、積極的な考え方をしやすくなるでしょう。