定年後、これまでとは違った新しい人生を歩もうと考えながらも、あまりに自由になった時間を持てあましてしまう元サラリーマンを描いて話題になった、『毎日が日曜日』という小説を読んだことがあるかたも多いでしょう。
この小説を書いた、作家の城山二郎さんの『人生余熱あり』では、実際に定年退職したあと、発展途上国でシルバーボランティアとして働く人たちが、多数紹介されています。
技術指導のため、三カ月単位で年に三度は中国に出かける弗素樹脂の技術者や、パンづくりの技術を指導するため、一家四人でザンビアに移り住んだパン製造業者が登場します。
あるいは、パキスタンの石鹸工場へ技術指導に出かけて、現地で奮闘した石鹸製造技術者など、その職種はさまざまなものです。
そのどれにも共通しているのは、金もうけやビジネスのために働いているのではなく、社会のために自分の技術を活かそう、人々のために役立とう、どんなに苦労があってもほんとうに自分がしたいことをしようという強烈な意識を、一人ひとりがすべて持って働いていることです。
彼らはみな、それまで自分の培ってきた技術や経験、知識を活かす場を、このシルバーボランティアで探しあてることによって、新しい、大きな生きがいにめぐり会っているのです。
技術革新の激しい日本では、せっかく時間をかけて身につけた技術も、あっというまに古い技術となってしまい、用済みとなることもしばしばです。
退職後、新たに働こうと思っても、つぎつぎに変わっていく技術についていく自信がないと、二の足をふみがちになるかもしれません。
しかし、このシルバーボランティアのシステムを活かせば、自分の技術をフルに活かすことができます。
たとえば日本では、もはや古くなってしまった技術でも、アジア、アフリカなど第二世界の国々では、まだまだ有効なものは数多くあります。
たとえば、日本ではどうということのない自動車整備の技術も、第二世界に行けば大歓迎請け合いです。
大工さんや左官屋さんなどの持っている家を建てる技術も、海の向こうではおおいに役に立ちます。
最新のコンピュータ技術のようなハイテクではなく、日本では少々古臭くなった、ごくプリミティブな手仕事のレベルの技術だからこそ、第二世界でおおいに役に立つのです。
『人生余熱あり』に紹介された人たちは、誰もがみな、さまざまな苦労をしながらも、とても生き生きとして見えます。
それは、自分を必要としてくれる場がまだまだあると実感できる、意義ある第二の人生を生きているからに違いありません。