私は昔から、過去を振り返らず、いつも未来だけを見つめて生きたいと思っていたために、日記をつけることをしてきませんでした。
この考えはいまも変わっていませんが、人によっては、ときには過去を振り返ることで自信を持って、新しい未来に前向きに向かうこともあります。
イギリスの作家で、ユニークなスランプ脱出法を実行している人がいます。
執筆中にどうしても書けなくなると、自分の学生時代に書いた日記をひっぱり出してきて読むのだそうです。
学生時代の日記を読んでいると、「ああ、こんな時代もあったのだ」と、なんとなくホッとするのだそうです。
もちろん、楽しかったできごとも、なかには悲しかったできごとも書いてあります。
しかし、昔にくらべれば、いまの自分はずいぶんと進歩したものだという気持ちになるというのです。
日記には、過去の自分の行動や考えが書かれています。
それを、いまの自分と対比することで、スランプに陥ったいやな気分を、はね返そうというわけです。
いま中高年の人々のあいだで、「自分史」を書くことが静かなブームになっています。
なかには自費出版でりっぱな一冊の本にする人もいます。
さらに凝って、マンガ化してしまう人もいると聞きます。
「自分史」とは文字どおり、自分の歴史のことです。
子どものころの自分は、いったいどんな子どもだったか、学生時代に何をしたか、就職をして会社で何をしてきたか……。
あらためて考えてみると、日ごろはまったく忘れていた意外なできごとを思い出すこともあるでしょう。
自分にはこんなこともできたのだと、あらためて自分を見なおすようなできごとも、三つや四つは出てくるかもしれません。
自分史などというと、大げさな印象がありますが、いわば「思い出の集大成」です。
あらたまって、年代別に系統だてて書かなければならないというものではありません。
それこそ思いのままに、書いていけばいいのです。
他人に見せるものではありませんから、文章が下手だからと気にすることもありません。
みんな、思い思いに自分の書きたいことを、書きたいように書いています。
よく、過去にとらわれるなといわれます。
たしかに過去にとらわれて、昔はよかった、と感慨にひたるばかりというのはよくないでしょう。
過去にとらわれることは、積極的なことでも、生産的なことでもありません。
しかし、過去も、使い方しだいです。
過去の自分をバネにすることで、いまの自分を奮い立たせることもできるのです。
「自分史」を書くのもいいですし、また、昔愛読した本を読み返してみるのもいいでしょう。
読み進むうちに、当時その本に抱いていた感動がよみがえってくるでしょう。
また、以前とは違った感動を持つこともあるでしょう。
それによって、昔と変わった部分や、変わらない部分を再確認してみることもできます。