最近、多くの企業で、定年を間近にひかえた社員のためのセミナーが開かれており、私も講師として招かれる機会がけっこうあります。
そんなとき、私はまず参加者に、「あなたが明日退職するとして、退職した日から一週間、何をするかスケジュールを考えてください」ということにしています。
自分で実際にやってみるとわかりますが、この一週間分のスケジュールが案外埋めにくいようです。
定年後、十年、20年の計画をすぐに立てよといわれても、これはたいへんむずかしいことです。
それでは、さしあたって、退職直後の何日間かくらいなら、すぐにでも計画が立つだろうとやってみるのですが、意外にこれがそうでもないのです。
たとえば、一日目は部屋を整理します。
二日目は思うぞんぶんゴルフをします。
三日目に庭の手入れをし、四日目は読書、そして五日目ともなると、もうスケジュールが埋めにくくなってきます。
やりたいことが見つからないし、考えつかないのです。
この一週間のスケジュール表は、まさに定年後の生活の見取り図でもあるのです。
なにも十年、20年の計画を立てなくても、一週間の予定を立ててみるだけで、自分が定年後にいったい何がしたいのか、何に情熱を燃やせるのかが見えてきます。
一週間の予定すらすぐに埋まらないようでは、あまりにも定年後の生活への期待や備えを持っていないといえるでしょう。
逆に、一週間がすぐに埋まって日時が足りなく満ちあふれるようなら、定年後の人生は、盛りだくさんの欲求をはたしていこうと、期待されて迎えることができるでしょう。
ですから、定年後に対する自分自身の意識を一度チェックしてみる意味においてでも、一足とびに十年、20年といわず、とりあえず一週間の計画を立ててみてはどうでしょうか。
それによって、自分が定年後にやりたいことのテーマの優先順位も見えてくるでしょうし、その一週間に盛り込めない大きな旅行など、長期計画の存在も浮かび上がってくるかもしれません。
そして、そうした具体的で実質的な効用以上に、すべてを自分で決めなくてはならない新しい人生への取り組みを、いやがうえでも意識させられるでしょう。
私たち平均的サラリーマンの現役時代は、あまりにも他律的な部分が多すぎます。
定後の自立ということが、口をすっぱくして説かれています。
この自立はいいかえれば自律であり、自分で自分を律することにはかなりません。
多くの日本人は小さいときから個性を殺して、組織のなかに埋没する生き方をしています。
そのため、いざ自分ひとりで自立して生きようとすると何をしていいのかわからなくなります。
自分を律していたほかからの基準が外される定年後に、糸の切れたタコにならないよう、自分で引く糸をつくっておく必要があります。
その必要をよく知るためにも、いまお話ししたような定年後の一週間を想定して、スケジュールを立ててみることなど、ひとつの格好のシミュレーションになってくれるはずです。