以前、新開発の全自動焦点一眼レフカメラ、「α17000」が大ヒットしたことがあります。
このα17000でおもしろいのが、当時このハイテクカメラに最初に飛びついたのが、50〜60代の熟年層だったということです。
この種のハイテク製品は、まずはメカ好きの若者が愛好するのがふつうですが、α17000の場合は、予想に反して熟年カメラファンに支持されたのです。
理由は簡単で、熟年層のカメラファンは視力が衰え、精密なピント合わせに苦労します。
ところが、このα17000なら、カメラのほうで自動的に、きわめて精度の高いピント合わせをやってくれるので、メガネを上げ下げしてピント合わせに苦労する必要がないというわけです。
新しく登場してきた製品などというと、ついつい年配層の人間は敬遠しがちになります。
とくにハイテク商品ほど、その傾向は強いようです。
しかし、実際に使ってみて慣れてしまうと、ハイテク技術を使った新製品は、なかなか便利なものです。
そのうえ、はじめてのものを使いこなすためには、ちょっとした頭の体操も必要で、かえって年配者向きといっていいものが多いのです。
子どものあいだで盛んなファミコンも、速い指の動きを要求されるゲームは指先の運動だと考えれば、頭に刺激を与えてくれる道具のひとつと考えることもできます。
パソコン、ワープロのキーボードと取り組むのも指先の運動になりますし、かな漢字変換のシステムは、記憶力の衰えを補ってくれる武器にもなるでしょう。
こうしたプラスがあるのに、中高年者のなかには、いままで使ってきてなじんでいるものを手ばなしたがらない人が多いのも確かです。
こういう人は、「ヘタにいじるとこわれるのではないか」とか、「いまさら、そんなものに手を出すのは恥ずかしい」などとさまざまな理由をつけて、新しい製品から逃げたがります。
人間の記憶力は、年とともに衰えるものですが、新しいものをまったく受けっけなくなるということではありません。
ただ、受け入れるまでのスピードが少々遅くなっていくというだけです。
子どもにファミコンを与えると、どんどん消化して、自分のものとしていきます。
これにくらべて、中高年になった人がファミコンに慣れるまでには、子どもの場合よりも時間を要します。
だからといって、中高年の人が、ファミコンを楽しむ能力に欠けているというわけではありません。
新しい製品、商品に慣れるまで、若者の何倍もの時間がかかるというのは、たしかに愉快なことではないでしょう。
しかし、そうした現実は現実として受け入れて、ゆっくりと時間をかけて、たとえ四カ月、五カ月かけてでも、使いこなせるようになったほうが、食わず嫌いで手をつけずにいるよりは、その後の人生のために、どれほど前向きかわからないはずです。