ヨーロッパで長年、オペラ歌手として活躍された岡村喬生さんが、「年をとると、連日オペラを歌うようなメチャクチャな連投はできないが、声の瞬発力は年々増してくる」と語っておられるのを雑誌で読んだことがあります。
そのお話のなかで岡村さんは、登板を中二日ぐらいに調節しさえすれば、なんと65歳までは歌い続ける自信があるというのです。
私はオペラのことは詳しくわかりませんが、広いホール中に響きわたる声を出し続けようとすれば、たいへんな体力を必要とするでしょう。
それを岡村さんが、65歳になっても歌い続けられる自信があるというのは、昔どおりの体力に頼ろうと考えていないからに違いありません。
体力というものは、年をとれば自然に衰えてくるものです。
岡村さんはそこにいつまでも執着するのではなく、「持続力」という体力を、「瞬発力」というべつの体力としてたいせつに磨きあげて、60歳を過ぎたいまも、現役としての自信を保っているのです。
年齢を経るにしたがって、技術や歌に磨きがかかり、若い人にはとうてい及ばない、深みのある演技をしておられることでしょう。
40歳を過ぎたころから、体力をはじめとして、さまざまなものが衰えるのは仕方のないことです。
ところがなかには、そうした現実を認めたがらず、「若いヤツには、まだまだ負けない」と、自分の老いた部分を否定する人がいます。
またそれとは逆に、自分の衰えた部分にばかりこだわり続け、「ああ、ダメだ」「もう自分は年だ」といった調子で、無意味な精神的葛藤に苦しむ人もいます。
はっきりいって、こうした、いくら悩んでも解決策のない問題で葛藤して、精神的なエネルギーを消耗してしまうのはナンセンスです。
それよりも老化からくる衰えは素直に認めて、もっとポジティブなものに精神的なエネルギーを振り向けたほうが、ずっといいと私は思います。
